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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
あの旋律に切なくなったのは本当だ。王様だからとか、彼が歌っていると思ったから同情したという可能性も否定は出来ないけれど。
呪いを解きたくて、何人ものお姫様に逃げられて、それがハイネの人生だったとしたら。
(それは当然あの幼い見た目だし、従者としてはその呪いが解けるまで一緒にいたいだろうけれど……)
「……ん?それなら、」
私はふと、実はこの言いようのないもやもやは、とても単純に解決することのような気がして顔を上げた。
彼がハイネを一人に出来ないのは呪いがあるからなら、ハイネの呪いが解けたら振り向いてくれるのではないか。
「……そっか」
私では呪いを解けないだろうけれど、呪いを解く手助けならしてあげられるんじゃないだろうか。
薄白んだ空を見つめて、私はようやく夜明けを感じた。
「……で」
翌朝。ハイネもとい王様もとい王子様は怪訝な顔で私に視線を向ける。
謁見の間は以前の時とは随分違い、カーテンを開け放って外の新鮮な明かりをいっぱいに取り込んだ、だだっ広い空間になっていた。
長く幅の広いカーペットの先には、立体感が凄い黄金のツタが絡みついたような大きな玉座が置かれ、見慣れた小さな姿のハイネが座っている。
彼は片肘をかけて気怠げにため息をついた。
「帰るんじゃなかった?」
その非難の先には王様だった男。私の隣に立ち、困った顔でううん、と唸る。
「お伝えしましたが……」
「馬車がこなかったの?」
「来ました」
ハイネはますます眉間に皺を刻む。
「じゃあなんでここにいるんだよ!」
「あの!」
心底困ったという様子の男の代わりに私が声を上げる。
「私ここに居たいんです!」
「はあ? ……なんで」
「それは……あの、仕事……掃除とか、途中だし。二人で本当のこと隠してるなら、もう一人秘密を知ってる召使いがいた方が……都合がいいんじゃないかなーって」
両手を合わせたり握ったりして、しどろもどろに答える。
結果として私が出した結論は、「王子の呪いを解いて王様だった男に振り向いてもらう」というものなのだ。
二人になんて伝えたものかと城内をウロウロしていた。すると偶然にも、本来は彼の仕事だったのかハイネの朝食を持って廊下を歩いている王様だった彼に会ったのが数分前だ。