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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま

本当はここに残りたい理由なんて分かりきってる。


呪いを解きたい。そして、出来ればもう少しだけでも彼のそばにいたかった。ハイネに言えばまた女はしたたかと嘲笑されるかもしれない。昨日のハイネのキャラからして、呪いを解く手伝いをしたいなんて言っても馬鹿にされて終わるだろう。

多分彼は猫を被っていただけで、実際はかなり意地悪に違いない。


王子は不可解とも言うように目を細めて私をじっと見ていたが、ため息をついて手をひらひらとさせた。


「お前、祭典の準備に手が足りないって言ってたじゃん。使ってやれば」

「は?」
「ありがとうございます!」

「祭典までだから。それ以降は人手足りてるし、スペースの無駄だから国に帰ってよね」

「更新できるように頑張ります」
「そんな制度ないけど」


かくして私は期間限定のメイドになった。
王様だった男は頭を抱えることになってしまったけれど。


真実を知っても尚、逃げ出さないのを明らかに訝しむハイネの視線には気づかないふりをした。

それに今帰ってしまったら、ハイネが言っていた「王様だから好き」というのを肯定してしまうじゃないか。それも嫌だった。そもそも負けず嫌いだから、彼のことがなくてもきっとこの可憐で意地悪な王様……いや、王子様から逃げ帰るという構図を嫌っただろう。

どうも私は根本的に損をするような性格をしているようだ。




「あの、本当の名前を教えてもらえませんか?」


自室に祭典の準備に使う資料があるというので向かう途中、ずっと気になっていたことを尋ねる。だって王様じゃないなら、アヴァロ様でもないわけだから。

彼は昨夜のことがあったためか、しばらく躊躇してからとても小さい声で答えた。


「ジバル」

「ジバル……様」


不思議な響きの名前だけれど、そういえばハイネが異国の者だと言っていた。

「ジバル様のお国は……」
「オレは、生まれた頃からブルビリアの大陸にいたから詳しいことは知らないのだ……すまない」
「あ、いえ……」

また余計なことを聞いてしまった。王様という地位以前に私はこの人に対して緊張するらしい。ハイネは王子様とわかった今でも少し気安さが残っているのだけれど……いや、それはそれで問題か。

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