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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「君の、兄君のことは」
「あ! 王様に密書!」
自分のことですっかり忘れていたが、そういえばハイネが密書を送ったと言っていた。なんて送ったのか確認しておいた方がいいだろう。考えてみれば兄さんに二通目の返事もしていない。
「ちょ、ちょっと失礼します!」
「あ、おい……」
ジバル様の返事も待たずに気づけば踵を返して謁見の間に引き返していた。
「……あのねえ、僕って一応王子なんだから、そんな簡単に謁見できると思わないでほしいんだけど」
「すいません……王子」
さっきと同じところで大きな玉座に膝を抱えて天井をぼんやり見つめていたくせに、「忙しいんだけど」とぼやく。
私は言い慣れない呼び方に違和感を覚えつつ、戻ってきた理由を伝える。
「あの、ルバルドに密書を送ったって聞いて……」
「ああ、それ。あいつに聞けばいいのに。お前が姫の身代わりって分かった次の日には送ってたよ」
「え……伝えてないって……」
「あいつがそうしたいっていうからさ。別に僕としてはどっちだっていいんだけど……いつかはバレるのにね」
王子はどこか遠い目をして、すぐに私を見た。
「身代わりなんてちょームカつく。でも身代わりの娘がよく働いてるしどうしてもっていうから表立った国際問題にはしないけど、支援は打ち切る。預かってる兄貴を放り出したら今度は公式に非難するからな」
「……え」
一息にすらすらと真顔で物騒なことを語るハイネに私は唖然とする。
「ルバルドの国王に送った密書の内容。知りたかったんでしょ」
「そうですけど……」
「だからさ、もうあの国に面倒見てもらってるとか、兄貴の身を心配して何が何でもここに居なきゃとか思わなくていいんだよ。胸張って帰りゃいいのに。……まあ、概ねの予想はついてるけど」
「……」
ハイネの言葉はほとんど耳に入ってこなかった。
もう兄さんの面倒を見てもらっているからとルバルドの命令に従わなくてもいい。本当はメイドになった日から、私の見えない鎖は外されていた。
喜んでいいのか怒るべきなのかわからない心境に、私は曖昧に首を傾げる。