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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
(どちらにしろ、私はメイドになってここに残ることを選んだんだけど)
目の前の執事の服に身を包んだ愛らしい少年は、呪われた王子様。
王様だと思っていた人は、異国から来た大きな男。
私なんかよりも大きな嘘に覆われたこの国の呪いを解かないと、ここに残った意味はない。期限付きのメイドだから、なおさら悠長にはしていられない。
「……王子。確認させてください」
「ん?」
「あの日、夜に、暗い廊下で会ったのは」
「僕」
「廊下から私の部屋に運んだのは」
「僕」
「あの歌を歌ったのは」
「僕」
「女神を怒らせて呪われたのは」
「僕」
「……私を抱いたのは」
「僕」
もしかしたらその場で芽生えた悪戯心であんなことを言ったのでは、と仄かに抱いていた期待が崩れる。
やはりジバル様が毎夜、目隠しと手枷をしていたのは自分を見られることを嫌っていたのではなく、王子の呪われた姿を見せないためだった。
「あいつが目隠しをしたら、僕が入れ替わってた。あの廊下で会ったときは……まあ、お前気絶しちゃうしなあ。急いであいつ呼んだからよかったけど」
ハイネは何が面白かったのかくっくと笑った。
がっかりなのか、何かよくわからない気分が胸に渦巻いて仕方がない。私が好きになったのは、どちらだ?
「……じゃあ、あの人は、私を抱いたこと……ない?」
「姫だと僕のものってことになるからね。今はただのメイドだし、僕の知ったことじゃないけど」
いつの間にか、爪先を見つめていた。その視線を上げると、退屈そうに毛先を指でくるくるする涼しげな青い瞳が揺れた。
「あの絵本は、あなたのこと?」
「途中までね」
「ジバル様に身代わりをさせたのは……どうして、ですか?」
「どうして?」
「あなたの姿が変わるのが夜だけなら、こんな城の奥に引きこもったふりなんかしなくても、執事のふりなんかしなくても、良かったでしょ?」
だってこんなに美しい顔立ちなんだから、夜だけ隠れていればいいだけじゃないんだろうか。
私の問いかけに王子は奇妙な顔をした。左右非対称で、傷ついたようにも微笑んでいるようにも見える。