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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「贖罪」
「……え?」
その言葉にギクリとすると、王子はすぐに笑った。
「なんてね。……僕がこの呪いをかけられて何年経ったか知ってる? 十年だよ」
「十年……」
「僕は二十六歳なの。わかる? 僕が表に出られない理由が」
「に、……」
見た目はどう見ても十五かそこいらで、決して私よりも年上には見えないのだけれど、中身が二十六ということは呪いを受けたのは十六歳の時ということになる。それにしてはあのおとぎ話が地方に根付くのが早い気がするが。
つまり、ジバル様もそのくらいの年齢なのだろうか。
(軽く十歳は年上ということになってしまうのだけど……ってなんの心配をしているんだろう)
話が逸れそうになって首を振る。今は呪いを解くきっかけを聞き出すことが最優先だろう。
ハイネはぼんやりと宙を見つめて独り言のように小さな声で呟く。
「そこそこ大人になってからの呪いなら良かったんだろうけど、僕の姿がこれじゃあね……。ねえ、次は僕が聞きたいんだけど」
「え、は、はい」
「なんでお前、逃げないの? 僕の……見たじゃん」
最後は尻すぼみになって、ほとんど消えかかった声で呟く。その一瞬だけ、彼の弱さを見た気がした。怖くて、脆い。か細い胸の内に秘めた本来のハイネ。
今までの自信ありげな態度とは程遠くて、内心隙あらば鼻っ柱をへし折ってやろうと考えていた私は少し動揺した。
「え……。見たけど……中身はハイネだし」
恐ろしい見た目、醜い形貌。けれど、心はハイネだ。恐ろしくないわけではないし、もちろんまた目の前で見たら恐怖が湧くだろう。けれど、日中の彼はここに来てすぐの怯えていた私を励まして助けてくれたし、時折悲しい歌を歌い、子供のようにすねたり笑ったりする。それ自体は演技ではない……と、思いたい。
ハイネは私の反応を怖がるように、体を縮こませて自分の手を見る。
「でも、僕は……醜い」
「今は可愛いんだからいいじゃない」
さっきみたいにふんぞり返っていてくれないと、こっちが調子狂ってしまう。ついいつもの調子で返すと、ハイネは怯えるように小さくしていた体を少しだけ私に向けて、またしても不可解という顔をした。
「……バカな上に鈍いのか?」