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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「君が」
「はい!」
意を決したのか、大きく息を吸うと声を上げた。思った以上に大きな声でびくりとするとジバル様はまた、そのまま息を吐いて口元を覆う。なんだかとても可愛く見えてしまうのだが、そんなことでほんわかしているのは場違いな雰囲気に、私は唇を噛んで絶えた。
大きな黒い猛獣は私に背を向けた状態でぴたりと止まる。
「……君が、国に帰ると思ったから……」
「は、はい」
「いや、違う。元々はあの騎士か……」
「……騎士?」
騎士といって浮かぶのは先日森の中で襲い掛かられたユーリだが、彼に何かしたのだろうか。
「……君の兄君からの手紙を、燃やした」
「……は?」
ユーリのことを思い出していたら急にそんな告白をされて、今度は私が胸に抱いた書類を落とした。
「い、いつの」
「あの騎士を追い返してすぐだ」
「えっと……なぜ?」
「彼がハイネ様の……あの姿を見てしまったからだ」
「城の中には入ってないのに?」
「君が帰ってこないからだろう!」
ジバル様は声を荒げた。すぐに後悔したように頭を抱えて、深呼吸する。
「……あの日、君が日が沈んでも戻ってくる気配がないから二人で森に向かったのだ。ハイネ様は君に姿を見せるわけにはいかないからあの騎士の方を助けに行って、そこで……」
ぽつりぽつりと零されるあの日の真実に私はただ棒でも飲んだようにその場に立ち尽くした。あの場にハイネもいたのか。あんなに自分の姿を嫌っているみたいだったのに、人目に晒される危険を覚悟しながら。
(……私を、心配してくれた?)
胸がざわついて仕方なかった。本当に、意地悪なら意地悪で統一してくれれば私だって存分に憎めただろうに。私は視線を彷徨わせる。
「でも、それがなぜ兄の手紙に?」
「騎士が、姫とはぐれた森で獣を見たと国で言い回っていて、君を心配していた。オレは……、ハイネ様がミアにあの姿を見せるとは思わなかったから、出来るならそのまま帰らせるか、もしくは……君を、行方不明のままにしてしまおうかと思った」
「そんな……」