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陽炎ーもうひとつの物語ー
第7章 独り
思えば、仕舞いにばっかり気を取られて、ちゃんと足元を見てなかったのかも知れねぇ。
玄人気取んなら、最後まで気ィ抜かずにやりやがれ。

いつもなら躓くはずのない、小さな石に蹴躓いた、そんな感じだった。

屋敷の中、お宝を掠めてずらかろうとした時。

足元で餓鬼の声がした。

「ちちうえさま…」

いつの間にか、二、三歳の餓鬼が足元に居た。餓鬼は俺の正体に気付いているわけではなさそうで、眠たげに目をこすりながらしっかりと俺の着物の裾を握っている。

怖がらせて声でも上げられた日にゃ一貫の終わりだ。
冷たい汗が背を伝う。

俺は出来るだけ穏便に餓鬼を離そうとしゃがみこみ、餓鬼の肩に手を掛けた。


その時、手下の一人が餓鬼に気付く。

「この餓鬼ッ、頭から離れろ!」

獲物を餓鬼に突き付けて脅す手下に

「馬鹿野郎!でけぇ声出すなッ!」

立ち上がり、餓鬼を獲物から離して思わず怒鳴った。

「曲者!小太郎から離れろ!」

大人の男の声とともに、パンッという何かが爆ぜるような音が聞こえ、同時に、脇腹に焼けるような痛みが走った…
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