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陽炎ーもうひとつの物語ー
第7章 独り
猿ぐつわが外れ、赤猫の他に、兵衛、八尋、鷺の顔が見えた。

俺は安堵と情けなさに、力なく微笑む。
顔が動いたかどうかはわからねぇが…

赤猫以外の三人が、視界から消える。俺から離れたんだろう。

赤猫だけが、俺の横で、手を握ってくれた。

薬のせいか、目を開けたまま、眠ることができねぇ。

眠ったら、もう目が覚めねぇんじゃねぇか、というぼんやりした不安もあった。

目だけで赤猫を確認し、

「赤猫…」

と呼んだ。

「何?」

赤猫が顔を覗き込んでくる。

空いた左手で、そっとその頭を抱え、赤猫の口唇に俺の口唇を押し付けた。

「…もう、抱いてやれねぇかもしれねぇから、な。これで勘弁してくれ。」

赤猫の目に涙が浮かぶ。

顔に水が伝う感覚。
赤猫の涙か。
それとも、俺のか…?

赤猫は握っていた手を離し、俺の頬に両手を添えると、口唇を重ねてきた。

優しい、幸せな感触に、ちょっと泣きたくなった…




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