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料亭『満月』
第1章  
「そうだ。私は君たちから物を買おうとは思わない。君たちの会社の社員ひとりひとりがどれだけ我が社のために働いてくれるかを重要視している。たとえば、製品をいくら安く買っても故障したときにすぐさま駆けつけないようでは意味がない。前回買った複合機がいい例だ。安く買ったがいいが、故障が多く、おまけに修理を依頼してもサービスマンの手が空かなくて二、三日も待たされる。うちとしてはその間業務が滞るわけだから、それだけで損害だ。だから私は値段とか機能とかは二の次なのだ。もしかして君たちは、売るだけが目的で、あとは成り行きで、なんて考えているわけはないだろうね?」
私は彼女のこちら側の肩に手を置いた。
「せ、専務、そんなことは……」
私は少し口調を強めた。
「まあ、三谷君がさっき、急きょ出かけた通り、彼はどんな時でも取引先のために身を粉にして働いてくれる。だから私は彼を高く買っている。彼が選ぶ製品、というよりは、私は彼自身を高く評価している」
「は、はい……」
少し間をおいて訊いた。
「君は、三谷君のように取引先のために働けるかな?」
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