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料亭『満月』
第1章
床の間の前の座椅子に座る。
料理と飲み物は既に並べてあった。
仁科がビール瓶の口を私に差し出す。
そして、切り出した。
「専務、今回の御社の全パソコンのOSのバージョンアップの件ですが、うちの見積もりは率直に言っていかがでしょう?」
私はコップに注がれている間、思い出したように言った。
「その前に……そういえば仁科君、今度結婚するそうだね。おめでとう」
「ありがとうございます。六月にですが、お手間を取らせることになりますが、専務にも是非、式には出席していただきたいと思っています」
仁科が私を見つめた。
「部外者の私は遠慮しておくよ……」
笑いながら答えた。
「そんなことおっしゃらずに、是非……」
私は仁科から瓶を受け取り、仁科にも注いだ。
そして、隣の宮部にもビール瓶の先端を向けた。
宮部はどうしたらよいかわからず、どぎまぎしていた。
宮部は仁科を見た。
仁科は無言でうなずき返した。
私の前にコップを持ったほっそりとした指が差し出された。
震えていた。
「さあ、遠慮せず、飲みなさい。今日は充分時間がある……」
私は笑みをこらえ、早く仁科が、自分の携帯電話に緊急の連絡が入る芝居をうつことを、待ちわびた。
完
料理と飲み物は既に並べてあった。
仁科がビール瓶の口を私に差し出す。
そして、切り出した。
「専務、今回の御社の全パソコンのOSのバージョンアップの件ですが、うちの見積もりは率直に言っていかがでしょう?」
私はコップに注がれている間、思い出したように言った。
「その前に……そういえば仁科君、今度結婚するそうだね。おめでとう」
「ありがとうございます。六月にですが、お手間を取らせることになりますが、専務にも是非、式には出席していただきたいと思っています」
仁科が私を見つめた。
「部外者の私は遠慮しておくよ……」
笑いながら答えた。
「そんなことおっしゃらずに、是非……」
私は仁科から瓶を受け取り、仁科にも注いだ。
そして、隣の宮部にもビール瓶の先端を向けた。
宮部はどうしたらよいかわからず、どぎまぎしていた。
宮部は仁科を見た。
仁科は無言でうなずき返した。
私の前にコップを持ったほっそりとした指が差し出された。
震えていた。
「さあ、遠慮せず、飲みなさい。今日は充分時間がある……」
私は笑みをこらえ、早く仁科が、自分の携帯電話に緊急の連絡が入る芝居をうつことを、待ちわびた。
完