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料亭『満月』
第1章  
日が沈み、街灯が灯り始めた。
もうそろそろワイシャツだけでは肌寒い。
賑やかな大通りから横道に入り、両側を塀に囲まれた道を進んで行く。
車は通れそうもない道幅だ。
片側は薄汚れたコンクリートブロックの塀。
片側は高さ二メートルほどの白い漆喰の屋根のある塀が続く。
しばらく行くと、その漆喰の塀はまた屋根のある小さな門に行き着いた。
その門の前で立ち止まる。
腕時計を見た。
七時五分前。
そのときだ。
表札型の小さな看板に明かりが灯った。
淡い光に『料亭 満月』の筆文字が浮かび上がった。
門をぬけ、暖簾をくぐる。
玄関では和服姿の六十がらみ女将が出迎えた。
両膝をつき、お辞儀する。
「お待ちしておりました……お客様は、すでに着いておられます」
「そう……」
靴を脱ぎ、女将の後に続く。

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