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第5章 約束
一課のデスクに戻ると、竹中に話しかけられた。

「あーよかった、課長、出かけたのかと思いました」
「悪い悪い、探しもんしててな」

竹中の持ってきた書類に目を通し、コーヒーを啜る。
水本を追いかける前に淹れたコーヒーは、すっかりぬるくなっていた。


結局、週末は帰らなかった。
幼稚園の友達家族と、うちでたこ焼きパーティーをするという。
「一緒にいても、もちろんいいけど」と美加は言ったが、俺がいない方が気楽なことくらいわかる。

週末に家族の顔を見ることができたら。
少しは変わったかもしれないのに…。
なんて、美加のせいにするなんて、最悪だな。


チラリと二課に目をやると、水本は電話中だった。
さっきあんなに乱れていたのに、平然と仕事をしているのが少し悔しい。

「竹中ー、これでいいぞー」

書類に判を押し、竹中に返す。

「ありがとうございます、じゃ、行ってきます」

書類をカバンに入れ、ホワイトボードに「14時帰社」と書き、竹中は小走りで出て行った。



そろそろ昼休み。
午後はアポイントが2件ある。
どこかでメシ食ってから行くか。

出かける準備をしていると、昼休みをつげるチャイムが鳴った。


女子社員が席を立つ。
水本は座ったままだ。

井上さんと何かを話した後、一度席を立ってからコピー機の前に立ち、また席に戻る。
いつの間にか、井上さんも外に出たようだ。

フロアには、俺と水本の2人。


「メシ行かないの?」
後ろから話しかけた。

びっくりしたように振り返る水本。
「…今日、電話当番なんです」

一課と二課は同じフロアにあるため、両課の女子社員が1人ずつ順番に電話当番をしている。

「そっか」

空いている隣の席に腰をおろす。

「邪魔?」
「…えーと、少し…」
「大丈夫だよ、さすがにここで襲ったりしないから」
「おっ、襲っ…」

また大きな目を見開いて、うつむく。

かわいいなぁと思う。
入社して15年になる。
何人もの女子社員を見てきた。
けれど、水本のように気になる女の子はいなかった。

「今日は遅くなりそう?」
「…そんなには」
「俺も、19時までには切り上げるから、メシでもどう?」
「…」
「予定ある?」
「いえ。えーと、大丈夫です」
「じゃ、決まりね」

俺は席を立った。
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