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第9章 2人きりのオフィス
いつも通り朝がやってくる。
どんなに眠たくても、出社しなければいけない。
シャワーを浴び、軽く朝食をとり、身支度をして、同じ時間の電車に乗る。

最初に水本と関係を持ってから、一週間が過ぎようとしている。
会社で会う彼女が、あんなにいやらしく乱れる女の子だとはどうしても思えない。

社内で会うと、一瞬ビクリと身構える水本。
そしてその後の笑顔。
俺を意識してくれているのがわかるその瞬間、たまらなくかわいいと感じる。
同時に、次に抱くことのできるときが待ち遠しく、またそんなことを考える自分に苦笑いしてしまう。

月曜日、最後に水本と交わってから、別の男に抱かれたのだろうか。
別の男に、あの乱れた姿を見せたのか。
そんな嫉妬さえ生まれる。

まいったな。
どんどん支配されていく。


金曜日のフロアは、全体的にどことなく浮かれている。
竹中は「目下遠距離恋愛中の彼女」の元に夜行バスで会いに行くと言い、ニヤけながらデスクに向かっている。
「前田課長も奥さんと子どもさんのところに行くんですか?」なんて、余計なことを言いながら。

「うるさい、さっさとそれを完成させろ」
「はーい」
「15時になったら、俺は出かけるからな。それまでだぞ」
「わかりました!」


竹中の書類完成を待ち、会社を出たのは15時過ぎ、3件の営業回りを終えて戻ってきたのは、19時過ぎだった。

当然のように竹中はいない。
それどころかフロアには誰もいない。
二課の上の電気は消され、一課の上だけがついていた。

デスクには幾つかの伝言メモが置かれていて、一枚ずつ目を通す。
出先で買った飲みかけの缶コーヒーを飲み、上着を脱ぐ。
ネクタイを緩めたところで、声がした。

「お疲れ様です…」

水本がフロアに入ってきた。


「…おお、まだいたの」

あまりに不意をつかれた登場。
上着を着ていて、カバンも持っている。もうすっかり帰る支度ができている。

「帰るところだったんですけど…」
足元に目線を落としたまま、近づいてくる。

「給湯室で洗い物してたら、前田課長が帰ってくるのが、見えたので…」

照れたように笑いながら顔を上げる。

「戻ってきちゃいました」
「……!」
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