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第14章 今年、最後の…
次の日、12月29日、仕事納め。
鳴る電話の数も少なくて、午後からはフロアの掃除をした。
「今日こんな暇なら、明日なんてほんと暇そう。時間たつの遅いだろうなー」と、明日出勤の安永さんが嘆く。
中本さんも、今日が 仕事納めだ。

「今年も終わりなんて早いねー」
「ほんと、あっという間でした」

そんなことを話しながら3人で窓を拭く。
毎年毎年、年末が来るたびに同じことを言っている。

「そりゃそうよ」と、中本さん。

「6歳の子にとって、1年は6分の1だけど、35歳のわたしにしたら1年は35分の1だからね」
「じゃあわたしは29分の1…そりゃそのはずだ」

と安永さんがため息をついた。

「わたし、給湯室掃除してきますね」
「亜沙ちゃん、ありがとう、お願いねー」


昨日の夜、前田課長からメールがあって、今日の仕事後会うことになった。
お蕎麦屋さんで、ちょっと早い年越し蕎麦を食べようと。

やっぱり断れない…いや、断らない自分。
シンクをクレンザーでこすりながら、ふうっと息を吐く。

「なに?ため息?悩み?」

振り返ると、竹中くんが立っている。
カバンを持っているところを見ると、帰ってきたところか出かけるところか。

「いやいや、そんなんじゃないから」
「ふうん」

なんだかつまらなさそうにフロアへ入って行く。
またシンクを磨く。

竹中くんとキミちゃんは、クリスマス前の週末にたっぷりふたりの時間を楽しんだらしい。
キミちゃんはネックレスをとても喜んでくれ、キミちゃんから腕時計を贈られた竹中くんは仕事中もニヤニヤしながらそれを眺めている。

「いつも一緒って感じでしょ」と自慢をされた。まあ、いいんだけど。


「なによ」と小さく呟くと「なにが?」とまた声がする。

顔を上げると、前田課長。
「竹中に何か言われた?」
「なんでもないです!」

シンクをこする手に力を込める。

「そう?…俺、17時半には終わりそうだけど、亜沙子は?」
「わたしも、多分そのくらいには」
「ん、わかった」

そう言うと、給湯室を出て行く。
時計を見ると、15時になるところだ。

今年1年、ここで何杯の紅茶を淹れたんだろう。
掃除も早く終わらせて、今年最後の紅茶を淹れよう。


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