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第2章 亜沙子の罪
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「前田課長は、結婚指輪してないんですね」
「うーん、しばらくはしてたんだけど。
やっぱり、指輪をするっていう習慣がないから、慣れなくて、もう何年もしてないな」
結婚指輪をしていない男なんて、珍しくない。
けれど、やはり女性の立場からしたら、して欲しいと思うモンなんなんだろうか。
水本はどんどん飲む。
一課にいる同期の竹中とコロコロ笑いながら話をしている。
軽い下ネタくらいなら、うまい具合に話に乗り、場をシラけさせることもない。
そんな水本を見ながら飲むのも悪くないなと思う。
「そろそろ、一旦しめまーす」
若手の声がかかり、帰り支度が始まる。
竹中が話しかけてきた。
「これからカラオケ行こうって言ってんすけど、前田課長もどうですか?」
「おお、みんな、行くの?」
「んーと、半分くらいっすかね」
「そうだなぁ」
上着を羽織りながら時計を見る。
21時半。
今日は18時から飲み始めたので、まだまだ早い。
「前田課長、行きましょう〜!」
腕を掴んできたのは、水本だった。
ほんのりと赤くはなっているが、フラフラする様子もなく、ニコニコと立っている。
「よし、行くか」
「はーい、前田課長も次いきまーす!」
竹中がみんなに声をかけ、ぞろぞろと店を出た。
カラオケまでの移動中、水本が俺の隣を歩く。
「カラオケなんて、久々だなぁ」
話しかけると、「わたしもですよ」と返事があった。
「そうなの?水本くらいの年なら、よく行くんじゃない?」
「うーん。同期といるときくらいかな。竹中くん、カラオケ好きなんですよ」
「同期とはよく集まる?」
「3ヶ月か…2ヶ月に1回くらいですかね」
そんな話をしていると、カラオケに到着した。
部屋に入り、飲み物を頼む。
もちろん、水本はアルコールだ。
今回は意図的に水本の隣に座る。
「水本は、よく飲むんだなあ」
「大好きなんですよー、お酒」
梅酒の入ったグラスに口をつけ、上目遣いで見てくる。
やばいな
目を逸らし、ネクタイを緩めて、ソファに深く座りなおした。
若手たちが順々に曲を入れ、うまいんだかうまくないんだか、ノリノリで歌い始める。
水本は歌う気がないのか、ニコニコしながら手拍子をしている。
ふとその手が止まり、右手の指輪を左手で触り始めた。
そして俺は、
とっさにその左手に自分の手を重ねた。
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