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桜の季節が巡っても
第5章 別離の春
また、この季節が巡ってきた-。
早朝の大学構内。
満開の桜のトンネルを潜る。
大地には春風に攫われた薄桃色の貝殻。
まばらに落ちているそれらは勿体なく-可能なら、踏んでしまいたくなかった。
なるべく避けて通る-慎重に。
一年振りの、懐かしい光景。
脳裏に、一面桜色の海だったあの日が甦る。
一歩。
また一歩。
桜色の空の下(もと)、泉夏はゆっくりと歩を進めた。
やがて建物の陰に隠れ、目立たない小さなベンチに到着する。
頭上には桜の木。