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桜の季節が巡っても
第6章 落涙の夏
「…暑い」
泉夏は堪らず呟いた。
壁にかかった時計を見ると九時過ぎ。
「朝からもうこんなに暑いなんて、今日も気温高くなるんだろうな…」
うんざりする。
夏休み中の平日。
母親と兄はとっくに仕事に出ており-泉夏は朝食を摂った後、二階の自室のベッドの上で雑誌を読んでいた。
窓を開け放ち扇風機を回しているのだが、早くも効果が薄れてきてる気がする。
もうちょっとしたらクーラーかなあ-思いつつ、なんとはなしに小学生の頃から使用している勉強机に目がいく。
右上の小さな引き出しをそっと、手前に引く。
去年の講義ノート。
未だに手に取ってはつい、開いてしまう-最終ページ。
赤い大きな花丸を、あのひとが描いてくれた順番通りに指でなぞる。
未だに他の色に塗り替える事の出来ない、未練がましい薄桃色の爪。
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