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桜の季節が巡っても
第1章 心恋の春
「有栖川先生-」
講義が終了するのと同時に、泉夏はおずおずと教壇に立つ准教授に声をかけた。
「あの…」
彼女が胸に抱えたノートを一瞥した彼は、目線だけで教卓の上にそれを出すように促した。
泉夏の顔が、一見してすぐ分かるくらい明るく変わる。
「いつも、済みません。あの…ここなんですが」
泉夏が躊躇いがちにノートを指差せば、秀王は即座に返してくる。
「構わない。学生の質問に答えるのも大事な仕事のうちだ」
-仕事。
心に大きな棘が突き刺さるが、泉夏はどうにか気持ちを切り替える。
しなやかで長い指に握られたペンが、ノートを走る。
今日もいつもと同じ。
綺麗な、整った、文字。
悟られないように、そっと、視線をずらしてゆく。
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