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桜の季節が巡っても
第9章 邂逅の春
もう少ししたら、ここから移動しよう。
でも、鞄は?
取りに戻る?
でも、もしいたら?
まだ、いたら?
真剣に思案している泉夏は-だから、気づかなかった。
自分が読んでいたものと足元近くまで滑り落ちてきた二冊の本を棚に戻し、彼女を見失わないよう追って来た彼が、すぐ側までようやく到着した事を。
彼女の真正面までよほど回ろうかと思ったが-逡巡した後(のち)、木の幹に背中を預けた。
幹の向こう側に何者かの密やかな-でも確かな、気配。
泉夏の身体が強張った。
見間違いでなければ-そのひとは躊躇いがちに、言を紡ぎ始めた。
「俺がよく知っているひとにとてもよく似たひとを、見た気がするのだけれど」
柔らかな、低い声。
懐かしい、甘美な響き。
泉夏の目に、涙が滲み出す。
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