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桜の季節が巡っても
第11章 逡巡の春
こんなにあっさり解(ほど)いてくれるとは思ってなかった泉夏は、心底安堵する。
彼の気が変わらないうちに早く家の中に入ろう-しかし、それは許してもらえなかった。
今度は腕の替わりに頭を掴まれ、引き寄せられる。
想定していなかったのでなんなく身体ごと前に移動させらせ、彼のより近くへ。
またもやあの時と同じ状況となってしまう。
「一番いい男は俺だからなあ」
泉夏の後頭部から頬へ、撫でるように龍貴の右の掌が動く。
あんなに、気をつけていたのに。
いつの間にか-また囚われてしまっていた。
泉夏は息を潜めた。
龍貴の手は愉しむように、ゆっくりと下へ移動した。
顎を持ち上げられ、俯いていた顔も上を向かざるを得ない。
ほのかな電灯の下(もと)。
彼の双眸はいつにも増して、誘(いざな)うように光っていた。
「…龍」
無駄だと知りつつ、泉夏は彼を呼ぶ。
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