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桜の季節が巡っても
第12章 希求の春
秀王は口を開いた。
「泉夏」
彼女を、呼んだ。
初めて、呼んだ。
出逢って三年目にして初めて、彼女の名を。
前以て呼んでいいかと確かに訊かれていた。
けれどあまりにも唐突で。
なんの迷いもなく。
呼び慣れているかのような口調でさらりと言われ、泉夏は反応出来ずに一瞬固まってしまう。
そして状況を把握して数秒後、驚いて彼を見た。
「たった一回、すぐに呼び終えてしまった」
-せめて二回と、お願いすれば良かった。
残念そうに微笑むその顔に、泉夏の右目から大粒の涙がひとつ、零れた。
「…もう一度」
「え?」
「もう一度呼んで」
また一粒、落ちる。
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