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桜の季節が巡っても
第14章 朧夜の春
彼女から離した唇は、無意識のうちに頬へ移った。
自分を誘惑してやまない口唇同様、その頬も違(たが)わず柔らかだった。
そこへ掠めるように口付け、更に滑るように耳朶へ移動しかけ-思い止まる。
彼女を欲しくて仕方のない気持ちは本当だけど。
愛欲のままに彼女を組み敷くのかと言えば-それは違った。
そういう愛し方はしたくない。
そういう愛し方は出来ない。
まだそう思えるくらいには、冷静で正常な思考は残っていたらしい。
微かな笑いを零し。
秀王は誤魔化すように、泉夏の身体を掻き抱いた。
荒い呼吸を整える。
昂ぶる一方の心と身体をなんとか落ち着かせる努力をし、やがて彼女の耳元で囁く。
「泉夏…数か月後になってしまうけど、また帰って来るから。その時はこうして逢ってくれる?」
-またこうして逢って欲しい。
彼の切なる願いに、泉夏はすぐに頷いた。
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