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桜の季節が巡っても
第14章 朧夜の春
相手を思い遣るからこその深い優しさ。
泉夏の涙腺は増々緩み、噛み締めた奥歯の間から嗚咽が漏れた。
その声に秀王は更に狼狽えたが-『傷付いていない』と意思表示した彼女を信じるしかない。
「俺は泉夏が好きで、泉夏を愛したいから抱きたいと思う。苦しめたり、哀しませたりする為にするんじゃない。その可能性が僅かでもあるなら…難しい」
その禁忌を幾度も心の中では犯した。
高まる情欲に耐え切れず、実際に彼女に手を出しかけた。
約束などもういい。
遅かれ早かれ、何れこういう関係になれるのなら-この際、順番なんて。
彼女の誘惑に、遂に堕ちてしまいそうになったけれど。
「今夜はこれ以上泉夏に触れない。触れない事が、俺の泉夏に対する気持ちだ」
彼の揺るぎない決意に、泉夏の涙は止まらない。
自分を抱いてくれる腕にひたすら甘え、ひとしきり泣く。
そしてある程度まで泣けば-次第に心は、落ち着きを取り戻す。
「…先生」
泉夏は彼を呼んだ。
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