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優しい愛には棘がある
第2章 Moon crater affection
「端見さん」
「……なっ、……友達か?」
突然介入した第三者を認めるや、少年の眉根が決まり悪そうに寄った。
今の今まで恋人を虐げていた手が、渋りながら離れていった。
「端見さん。先生が呼んでる。すぐ連れてこいって頼まれてるから、来てくれない?」
「…──。……」
「あ……あの……」
月子がその場にへたり込んだまま、顔を上げていた。
腰まである雲鬢は、乱れていた。アイボリーのボレロに覗く白い襟も、痛ましい具合によれている。
先刻まで泣きそうにたゆたっていた双眸が、動揺を露に揺れていた。
「行ってこいよ」
気の所為ではあるまい舌打ちの後、少年の吐き捨てる調子の科白が聞こえた。
「行ってこい。……悪かったな。別にお前に嫌がらせしたいんじゃねぇよ。引きとめねぇから」
「……先輩……」
「教師を待たせんな。単位に関わったら困るのはお前だ」
「…………」
少年が、月子の頭をくしゃりと撫でた。そして長い黒髪に手櫛を通す作業を始めた。
「…………」
いづるは、見知らぬ上級生から月子を引き渡された。