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優しい愛には棘がある
第2章 Moon crater affection


 数秒の間も置かない内に、またぞろ少年の手が震える細腕を掴み上げた。


 少女の身体が引きずられるようにして宙に浮く。


 少年のぞんざいな指先が、少女の頬を鷲掴みにした。


「ぐっ」

「良い顔してんなぁ、そそられるぜ。つきは顔だけが取り柄だもんなぁ。この顔も身体も俺のものだ……こうして好きなように歪めることも俺の自由だ」

「痛い……やめて……愛してる……こんなことしなくても私は先輩だけのもの……」



 いづるは、少女の方は知っていた。


 同じ学科の端見月子(はなみつきこ)だ。



 月子の澄んだ双眸が、真摯に少年を向いていた。名前も知らない上級生が、思わず羨ましくなるまでに。



 これだけ月子を見澄ましたのは初めてだ。


 そう思うと、いづるは自分で自分が理解(わか)らなくなる。


 こうも強烈な存在感を放つ月子が、何故、今日まで気に留まらなかったのか。



「俺を愛しているのに指図か」

「私は先輩と仲良くお付き合いしていたいの!」

「ままごとじゃねぇんだよ!!」


 少年の拳が、また、目をつむった月子に飛んだ。

 いづるの足が、あるじの意思より先立って、二人の前に飛び出した。
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