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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
どこからか鳥のさえずる声が聞こえる。
甘いしとりのしみた土の匂いに抱かれて、穂垣なしろ(ほがきなしろ)はぼやけた白昼夢の中にいた。
頭上を覆うパステルブルーが、木々を彩る緑のレースを透かして初夏の光を注いでいた。
寝台代わりに身を預けているのは石膏の台。まろみを帯びたハートを四つ合わせた白詰草にも見える台から、くるぶしまであるワンピースの裾が芝生に流れる。
トーションレースで縁どってある姫袖が、なしろの手の半分くらいを覆っていた。花壇に咲いたハルジオンにどこか似ている、白い造花が盛りつけてあるコサージュを留めた長い巻き毛を日よけにすれば、数十分は日焼けの心配もない。
なしろは、束の間の森林浴を楽しんでいた。
ここは市営の植物園の一角だ。
そこそこ知名度はある植物園でも、この領域に限っては、滅多に人が踏み寄らない。
密生した木々と植え込みが、暗に外界を断つからか。
大多数の物見客達は、主要の施設を見回った後、日当たりの悪い獣道に差しかかったところで引き返してゆく。