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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land



 三ヶ月ほど前からほぼ毎日、なしろはここに通いつめていた。

 大抵、昼下がりだ。それから日が沈むまで、時の存在しない時間を過ごす。


 その間、昨日までにここで出くわした人間は、たった二人だ。



 にわかに葉と葉のこすれ合う音がした。


「なしろ様」


 落ち着いた女性の声に絡めとられるようにして、なしろは植え込みに顔を向けた。


 女が一人、オオバコやわけの分からない草木が無秩序に生える茂みの間に立っていた。


 外部からでは行き止まりに見える植え込みも、一ヶ所だけ通路がある。人間一人が這って通れるほどの穴だ。

 なしろも女も、そこを使って出入りしていた。


「いらっしたんですね……良かった……」


 女は、配偶者を得てまもない新米専業主婦だ。滅多に人目につかないここを見つけた、希少な人間の一人である。

 清楚な顔立ちに小柄な体躯。女の肩にかかるほどの栗色の髪は耳許でシュシュに一つにまとめてあり、その装いは、七分袖のグレーのタートルネックのカットソーに飾り気のないハーフパンツだ。極めて垢抜けない印象だ。
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