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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
なしろは人間だった。
どれだけ綺麗事を並べ立てても、愛慾という、やはりそれらしい欲望に駆り立てられていた。
目前の少女も同じだ。
純粋で、綺麗でも、人間だ。
だのに、愛おしい。
なしろが真宵を想う気持ちは、きっとありのままの柔らかなものだ。
現実を忘れられるだけの快楽を求めたり、寂しさを埋められるものを貪りたかったりした衝動からくるのではない。
大切にしたい。同じ景色を愛でながら、同じ時間を歩いていきたい。
真宵は、前向きな優しい思いをくれる。
なしろが自分で自分を許せる愛慾をくれる。
「フェアリーランド……」
真宵のそよ風のような声が、なしろの耳をくすぐった。
「なしろ様に、お話ししましたよね?私……人間らしい人間が、苦手だって」
「──……」
「同年代の友達も、嫌いじゃないけど……怖くて。親も、どこまで私を理解してくれているのか、やっぱり怖い」
「真宵……」
「逃げて、逃げて、やっと見付けたのが、なしろ様のいらしたここでした。何を見ても怖かった、私が、初めて心も身体も許せた人が……貴女でした」
なしろは真宵をちらと見る。
化粧で垂れ目がちに見える。それでいて凛とした目許の湛える微笑みに、ひとひらの迷いも感じられない。
頼もしいほど美しい。
なしろは真宵の面持ちに、自然界に潜むどんなものより本物らしい無垢なものを見る。