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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land
だから、尚更、真宵らに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
なしろには、真宵らに心から謝る資格もない。
真宵の手が、なしろのそれを強く握った。
この手は、触れているだけで胸が安まる。
意識が、だんだん掠れていく。
ただ、一つ、なしろは胸裏で惜しんでいた。
この愛おしい時間を自ら断ち切ろうとしていることだ。
ナイフを抜けば、きっと致死量の血液が流れ出る。それでなくてもいつまで身体が持ちこたえられるか、分からない。
「お医者さんを呼んできます。近くに公衆電話があります。……絶対、戻ってきますから!」
「行かないで」
なしろは、真宵の手を握り返した。彼女が立ち上がれなくなろうまでの力を込めた。
間近にある澄んだ色の黒い瞳が、酷く苦しげにたゆたった。
「そんな顔、しないで」
「だって……血、そんなに……」
「ここに人間を入れたくないの。真宵だけいて欲しい」
「──……」
「真宵があたしを、まだ、許して……好きでいてくれているならここにいて」
真宵のひとたび浮いた腰が、芝生に戻った。