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一族の恥
第1章 お母さんへ
 ぼく、アンナにな。

 いっぺんだけ、服を買うたったことがあるんや。
 しまむらで、2000円くらいの服やった。

 だぶっとしたトレーナーみたいなんと、スパッツみたいなんのセットになったあるやつ。
 クラスのみんなが着てるみたいな、流行ってる感じのやつ。

 アンナのやつ、そらもう、メッタクソ喜んでな。
 「パパ、本気で嬉しい。真剣にありがとう!」ゆうて、ずっとそればっか着てたな。


 ていうか綾香が自分の身なり着飾るんで忙しくて金残らんから、アンナは学校の体操服以外で着れる服もってなかってんな。
 そら、ずっと着るようになって、当たり前やわな。


 せやからババアが畳の上にクソ垂れて、それを壁に塗ったくって遊んだあとの始末を雑巾片手に黙々と励んでるときもな。
 酔っ払ってヒス出した綾香にバッチバチにしばかれて、寒空の下ベランダで泣いとったときもな。
 ぼくが休みで綾香が仕事のときにな、「パパ、怖い夢見たから一緒に寝て」ゆうて、ぼくの布団の中にちっさい子供みたいに潜り込んできたときもな。



 ずーっとソレ、着てたな。
 



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