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一族の恥
第1章 お母さんへ
 龍二は働きたくもないこまい町医者なんか辞めてもて、由香里ちゃんの実家の家業、継いだらええねん。



 由香里ちゃんのおっちゃん、ほんまええ人やで。
 毎年醤油送ってくれんねん。
 いっぺんしか会うたことないのに、「大輝くん、里奈子さん、お元気ですか、夫婦仲良くやってますか?おっちゃんはそこそこです。毎年頭の毛根が元気を失っていきますが息子は代わらず元気です」ゆうて、手書きの手紙添えてな。
「いつか香川までみんなで遊びに来てね」ってな。


 あんなええおっちゃんと、ええ嫁さんいてんのに、お父さんの血筋やろか?
 あの龍二のボケは、大学病院で18歳そこらの若くて可愛いバイトの看護助手と浮気しとったんや。
 大学病院なんか辞めてもて正解やったんや。


 俺は知ってんねん。
 由香里ちゃんが赤ちゃん流したんは、龍二の浮気の心労のせいで切迫流産になってもーたからや。 
 俺が逮捕される前の話やて。
 由香里ちゃんが気にして、あとから手紙くれたんや。
 自分が一番辛いくせに、獄中の義兄のこと気遣ってな。
 

 龍二は家族をもっと大事にしたほでええ。
 それに長男のぼくが出来損ないやからって、龍二が中西を背負うことない。
 みんな医者やからって、自分も同じ道を歩むことなんかない。


 お爺ちゃんの病院誰が跡継ぐか揉めて、兄弟間、一族間で足引っ張り合いの血みどろの争いしてるようなヤツらとなんか、関わらんでええ。


 大事なんは、己の家族であって、一族の名誉やないねん。


 揃いも揃って名誉のためだけに品行方正を装い、子供らを血尿出さすまで追い込んで、オモテでは立派な親のツラして、でもウラでは怒鳴って詰って必死で高学歴を守らせて一族の名誉を傷付けんよう努めてる、気の狂った一族の連中に認められることやないねん。


 ぼくのことを人間のクズや言うて、名前ですら呼んでくれへんようなヤツらに、「自分は兄貴とは違う、自分だけは一族に認められたい」って努力して、ほんまに大切なモンを見失うような、そんな人生を送ったらあかんねん、龍二が大切にすべきなんは一族やないねん。
 由香里ちゃんやねん。
 

 ・・・な?
 ぼくな、アホそーに見えて、実はいろいろ、こんなして、考えててんで。



 お母さんだけは、分かってくれてたやろう?




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