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The one …ただ一人の…
第10章 卒業式
曄良は、思い出していた。

それは曄良が今の職場に入社して何年かたった頃、某有名ホテルの社員である田城という男が研修と称して仕事に来ていた。
同年代で、仕事をスマートにこなす田城は憧れだった。田城もまた、満更でもなく、良く曄良にちょっかいを出していた。
何となく、いい雰囲気だった2人。
田城からは、曄良と付き合いたいと申し出があった。
そんな頃、発覚した。田城には婚約者がいると。
曄良はそれでも付き合いたいと言う田城に戸惑っていた。曄良は何度も断った。
好きだけど、人を押し退けてまで田城と一緒にいるというのは何だか違う気がした。
そんな時、最後にするからと、田城から飲みに誘われた。
今日と同じように、相手が酔って、曄良にキスをして押し倒そうとした。
そして思わず投げてしまった。
「ごめんなさい…」
と謝る曄良に、田城は言った。
『可愛いと思ってたのに、男投げるなんて、最低だな……。オレ、お前とは無理だわ。』
曄良は、何も言い返せなかった。
その通りだと思ったからだ。
そのまま、彼とは2度と会わなかった。

その事は曄良の心の傷となった。


曄良の目から大粒の涙が溢れ落ちる。
日向は異変に気付く。
曄良の目には違う誰かが映っているような気がした。

『曄良っ!しっかりしろ!オレを見ろ!曄良っ!』

曄良の肩を揺すり、曄良を呼ぶ。
曄良が何処か遠くへ行ってしまいそうで、怖かった。

「あっ…」
視線が戻ってくる。
「日向……ごめん、私」

日向は曄良の肩を抱き、立たせる。

『帰ろう。今日は家に帰ろう。送って行くよ。』
「ごめんなさい……」

曄良は日向の肩に顔を埋めた。


『ちょっと酔ったから先に帰るわ。』
そう言って、ゼミのメンバーに挨拶すると、会場を後にした。
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