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The one …ただ一人の…
第14章 記憶
山下の携帯が鳴り響いた。
ん、社長から?珍しいな。

『はい。山下です。』
「あっ曄良ちゃんに雪乃の病院教えたのはお前か?」
『あっ、はい……すみません。』

ばれてしまった。山下は一瞬顔が青ざめた。
という事は何か問題が起きたのか?
『雪乃が、雪乃の記憶が戻った。らしい……』
「えっ、なんで。」

『状況は良く分からん。病院側もシドロモドロでさっぱり分からん。私も日向も、ここ数年行ってなかったから。取り急ぎ、鎌倉の病院へ向う。日向も病院に来るよう伝えてくれ。』

山下は、オフィスの机で書類とにらめっこしている日向に声を掛けた。

「日向さん、社長から連絡で、鎌倉の病院に来るようにと。」

ガタンっ

『母さんに何かあったのか?』
「いえ、あの記憶が戻ったと。」
『えっ?なんで急に…』

「実は今日、曄良さんは、雪乃さんに会いに行かれてて…」
『えっ?』

日向はジャケットを手にして、山下に言った。

『行くぞっ!』
「はいっ。」


車の中で、思い巡らしていた。
見舞いに行くたびにパニックになる母を。
オレも親父も、何とか思い出してもらおうと必死だった。でも、その度に母さんはパニックになり、安定剤を打たれ、泥の様に眠る。
そんな事の繰り返しで、オレも親父も母と距離を置いた。

状況が分からない。曄良は大丈夫なのか……?
母のパニックを目の当たりにして自分を責めたりしてなければ良いが…。


鎌倉の病院に着くと、山下と母の病室に足を運んだ。
病室の前で、親父が立ち尽くしていた。
『親父?』
「日向。」
「母さんが笑ってる。」
『えっ?』
病室に足を踏み入れると、キャっキャっと母と曄良が笑っている。

『あら日向。お父さん。』
母が、オレ達を見て言った。

オレも親父も、狐につままれた顔をした。

『母さん、オレがわかるのか?』

「ええ。日向、こんな可愛いお嬢さんがお嫁さんに来てくれるって聞いて、ビックリして、貴方の事も、お父さんの事も、思い出したの。」

そう言って、母と曄良は手を握り合ってる。
日向は横で微笑んでいる曄良に言った。

『曄良?どんな魔法を使ったんだ?』
「魔法なんて。」

そう言うと、母と曄良は顔を見合わせて笑った。
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