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The one …ただ一人の…
第20章 過去
曄良は、無数に付いた紅いシルシが悍ましく、学校にも行けなくなった。水もガスも止められ、シャワーすら浴びることが出来ない。
力無くリビングのソファに座った。
思考が停止してゆく。もう何日食べてないのか…飲んでないのか、解らなくなった。
意識が朦朧としてくる。
曄良はそのまま意識をなくした。


「……あ…」
明るい…天井?…私……
『曄良?』
目の前に兄の顔が見えた。
「お兄ちゃん……どうして?」
『馬鹿野郎!なんでもっと早く連絡して来ない!バカか……お前は…』
お兄ちゃんが、泣いていた。ポロポロと泣いていた。
「……お父さん、出て行っちゃった……私の所為で…」
『なんで、曄良の所為なんだ?』
「……受け入れてあげられなかった……から……」
譲は目を見開いた。
なんで?なんでそんな……
曄良を抱き起こして、力一杯抱きしめる。
『受け入れる必要は無い!そんな事しなくていいんだ!』
いっそ記憶を無くしてしまった方が…どんなに楽だったか。父の行為を…忘れてしまえれば…
「ごめん……なさ……い」
曄良の瞳から大粒の涙が溢れる。
『馬鹿野郎!もういいんだ。あんな親父!俺たちには要らない!忘れろ!あいつはもう死んだと思え!』
曄良は、ただ泣きながら、兄の言葉を聞いていた。

曄良はカウンセリングを受けながら、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
譲は、曄良の見舞いに毎日来ていた。
嫁に嫌味を言われながら。

「お兄ちゃん、そんなに毎日来なくていいよ。」
『好きで来てるんだ。ほっとけ。』
「お姉さん、大丈夫なの?」
『知らん。』
譲は、曄良以外、目に入ってなかった。
そんな譲に嫁が愛想を尽かすのは時間の問題だった。

見舞いから帰ると、家には他の男がいた。
譲はいい訳する嫁には目もくれず、自分の荷物をカバンに詰め、用意してあった離婚届を机に置いた。

「なんなの?随分用意がいいじゃない。」
『オレは、やっぱり妹しか愛せない。お前には、悪かったと思ってる。』
マンションと家財は慰謝料としてやるからと言うと、そのまま部屋を後にした。

初めて素直に言った。
『妹しか愛せない。』
譲は認めた事によって、自分が楽になった気がした。
初めから、認めてしまえば良かったんだ。
そう曄良以外愛せないと。

それから、譲は趣味の料理を活かして『ライル』をオープンさせた。
曄良と二人の生活が始まった。
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