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第20章 過去

控え室を出る時、マスターと話した事。
『もし、父親が現れたら……』
なくはない。何年も音信不通だった人間が、誰から聞いたのか突然連絡して来た。
何か……目的があるのか？
日向は来客を迎えながら、考えを巡らせていた。

来客の出迎えが終わり、披露宴の準備が整うまで、会場の入り口で日向と曄良は待機していた。
ふと、曄良に異変を感じる。
震えていた……。
『どうした？大丈夫か？』
次の瞬間の曄良の言葉に息を飲んだ。

「……お父さん……」

曄良の視線の先には、白髪の60代くらいの男が立っていた。
震える曄良の手を握り、入り口にいたスタッフに譲を呼ぶように言う。
曄良を、庇うように前に立ちはだかる。

『何か、御用ですか……』
日向は、静かに言った。

曄良の父親である男は、目に涙をためて曄良を見ていた。

会場の扉が勢い良く開き、譲が出てくる。
『親父っ！なんで来た？』
そう言って、掴み掛かろうとする。
日向が、譲を止める。
「人目があります。控え室に行きましょう。」
大人の対応をする日向に面食らった譲は、ため息を吐き、わかったと言って、控え室へ父親を連れて行く。

「曄良はどうする。話聞くか？」
ここで待っていても良いぞ。と日向は言った。
曄良は青ざめた表情で、日向を見た。
『日向……知って…るの？』
曄良を見つめる。
『私と……父が…』
曄良はポロポロと泣き始めた。
日向は、曄良の手を握る。力を込めた。
「大丈夫…曄良の事は、オレが守るから。」
『私…貴方にひどい事……』
日向は、曄良の頬に手をやる。
「曄良は悪くない。」
『言えな…かった……父に……』
曄良はフラッシュバックの様に、父にされた事が身体に蘇る。
「曄良？」
曄良はぶるぶると震えていた。真っ青になって涙が頬を伝う。
混乱しているのか……？
日向は、曄良の頬を両手で包む。
「曄良？オレを見て？」
ゆっくりと曄良の視点が戻ってくる。
瞳からは次々と涙が溢れてくる。
『私……汚い……父と…』
日向は目を見開く。
「曄良？曄良は汚くないよ。何も汚れてない。大丈夫だから。」
『でも…』
「曄良。」
日向は、そっと曄良に唇を重ねる。
そのキスは、曄良の心を溶かしていく。
大丈夫だからと優しく、安心するキス。
唇を離すと、曄良を見つめる。
「落ち着いた？」
『ん。』

譲が、控え室から出てきた。
日向と話をする。