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The one …ただ一人の…
第9章 退院祝い
日向は厨房から出て来たマスターを見た。
泣いてる?

『…娘を嫁に出す心境って、こんな感じなんだな。取られるみたいで、ははっ、情けねー。』

連れてけ。そう言って手を挙げて2階に消えて行った。

厨房に入ると、曄良が放心状態で立ち尽くしていた。
大丈夫?と曄良を見つめる。
「お兄ちゃん、泣いてた。」
『娘を嫁に出す心境だって。』
そっか。
『どうする?今日は止めとく?』

曄良は少し考えて。首を振った。
「行く。」
日向に抱きつく。
『わかった。行こうか。』


車を走らせ、ホテルのプライベートルームに着いた。
曄良はぼんやり夜景を眺めていた。
日向は、近くに寄ってそっと抱きしめた。
「曄良、、ここ、お風呂からも夜景が見えるんだよ…」
『んっ…』
そう言って、オレの胸に顔を埋めた。
泣いてるの?
『んっ…お兄ちゃん、泣いたの見たの2回目で。思い出しちゃった。』
「そっか……。」
『んっ…中学生の時、お父さんが帰って来なくなって、お金なくなって電気とかも止まっちゃって。私、栄養失調で倒れちゃって。』

曄良の肩を抱いた。
『その時、病院まで抱っこされて、何回も怒りながら、泣いてた。』
そっか…。
『なんか、心配かけてばっかりだね。』

そして、曄良の顔が急に強張ると、日向を見つめた。

「どうした?」
『私……日向に……伝えておかないと……』

唇を噛み締め、俯く。

「何?」
『あの…ん…』
「大丈夫?」

俯いたままの曄良の手を握る。

「言いにくい事?」
曄良の瞳が潤み、大粒の涙が溢れた。

「曄良?無理しないで。」

そう言って、曄良を包み込むように後ろから抱きしめた。
「曄良が、言える時が来たら、言って?」

『でも…』
「過去は過去でしょ?」
『でも…それじゃ…』

「言ったでしょ?どんな曄良でも、大好きだって?」

曄良の涙を日向はキスで拭った。
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