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星の島で恋をした【完結】
第22章 《二十二》
     *

 もちろん、セルマは泣くつもりなんてなかった。

 だけど昔から不意打ちでユルヤナの名を聞くと、気持ちが高ぶりすぎて涙があふれてしまうのだ。それがどうしてだか分からない。

 ユルヤナ一族の名を聞くと、セルマは周りにどれだけの人がいても、世界にたった一人、取り残されたかのような強い淋しさを感じていた。



 ──どうして今、自分はここに一人でいるのだろう。

   どうしてあの人は側にいないのだろう。



 あの人とはだれなんだろうと思うけれど、ユルヤナの名を聞く度にセルマの中に訪れるその言葉は不思議ではあったけれど、違和感なくしっくりくるものだった。

 自分のそばにその人がいないことが悲しくて、勝手に涙があふれ出す。

 久しぶりのこの感覚にセルマはついていけず、嗚咽まで洩れてしまった。

 だけどリクハルドが強くセルマを抱きしめて背中をゆっくりと撫でてくれていると、その淋しいという気持ちが急激に薄れていった。

 いつもだったらこの気持ちがセルマの中に訪れたら、かなり長い間、居座っているのに、今回は不思議と早かった。



 リクハルドの腕の中でぐすぐすと鼻をすすってはいたけれど、セルマはすぐに泣き止んだ。

 それを見て、リクハルドは大きく安堵の吐息を吐いた。



「カティヤ、セルマをいじめるな」
「いじめてないわ」
「じゃあ、どうしてこんなに取り乱しているんだ」
「それはセルマがアステリ持ちだからじゃないかしら」


 セルマはまだ泣き濡れた顔のままリクハルドの胸元の服をつかんで、顔を上げた。

 リクハルドが心配した視線を向けてきて、そして自分が今、ひどい泣き顔であることを思い出し、セルマは慌てて俯いた。

 リクハルドは無言でセルマの髪を梳き、それから頭頂部に軽く口づけをした。



「……何度でも言うけれど、わたくしがいること、忘れないでくださる?」
「断る」
「視線だけで殺されそうだからやめてくださらない?」
「無理。セルマはもう渡さない」
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