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星の島で恋をした【完結】
第3章 《三》
 男はぺろりと指を舐め終わるとセルマの緑色の瞳を覗き込んだ。挑戦的な光にセルマは男を睨み付けた。

「カティヤの頼みだから入れてやったけど、けがが治ったらとっとと出て行けよ」
「な……なによ、あんたっ!」
「俺か? ここの管理人」

 そうだ、さっきからカティヤ王女の名前はしきりに出てくるけれど、この男の正体は今分かったが、名前をセルマは知らない。

「名前は?」
「カティヤから聞いてない?」

 男の質問に、セルマはうなずきを返した。

「それなら、俺から名乗る名はない。ここには俺しかいないから、名前を知らなくても不便はないだろう。それにおまえは傷が治ったらここからいなくなる身だ」

 男の言い分はもっともだったが、もっと言い方があるのではないだろうか。かちんときて、なにか言ってやろうと思ったが、すでに男はセルマから離れていた。

「ああ、そうだ。一つだけ言っておく。あまり島を歩き回るな。狭いけれど凶暴な獣がいる」

 少し離れた場所から男はそれだけ告げると、今度こそ遠ざかった。

 獣ならあんたじゃないの! という言葉を叫びたい衝動に駆られたが、セルマは黙って男の背中を睨み付けた。



 男の姿がすっかりなくなって、セルマはようやく冷静に周りを見ることができた。

 セルマは今、屋根のある場所に立っていた。しかし壁はなく、いわゆるガゼボと言われるもののようだ。木の床が敷かれた上に建っているところをみると、ここが急作りではないということは分かった。

 広さは大人二人が両手を広げたくらいのもので、そこに背の低い寝台と小さな卓が置かれていた。

 寝台の横に見覚えのある鞄を見つけ、セルマはほっとした。

 そして──セルマは重大なことに気がついた。

 自分の身体を見下ろすと、なにも身につけていなかった。

「────っ!」

 そういえば、この島に着くなり攻撃を受けて海の中に落ちた。そして男の姿を見つけて、あろうことか気絶して──……。

「最低じゃない」

 この島にはセルマ以外はあの男しかいないと言った。ということは、攻撃してきたのはあの男で、挙げ句の果てに気絶したセルマの服を脱がして、あんなことを……!

「ひどいっ!」
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