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星の島で恋をした【完結】
第6章 《六》
     *

 透明な風がセルマを撫でていく。

 久しぶりに身体を動かして火照った身体に気持ちがいい。

 ガゼボの縁に座って身体を休めていると、男が近づいてくる気配がした。セルマは視線だけそちらに向けた。手になにか持っているのが分かった。

「簡単な飯を作ってきた」

 そういえば、腹が減っていないかと聞かれたことを思い出した。聞かれたときも空いていたが、先ほど、身体を動かしたことでさらに空腹感を覚えた。

「痛みがないからといって、いきなりあれだけ動くのはどうかと思うぞ」

 いつから見ていたのか知らないが、男の指摘にセルマは無言を返した。

 男はガゼボに入ると手に持っていたものを卓の上に置いた。

 紙に包まれたものが食べ物で、細長い器には飲み物が入っているのだろう。

「口に合うかどうか分からないが、ここに置いておく。足りなければ言ってくれ。まだ多少の余りはある」
「あ……うん」

 お礼を言わなければいけないのに、最初にされたことを思うと、素直になれない。男もそのことは分かっているのか、小さくため息をつくと、口を開いた。

「左肩、傷むのか」

 男の問いかけにセルマは首を振った。

「傷まないのなら、どうしてかばう?」
「かばっていたわけではない」

 セルマはとっさに反論したが、男の目にはかばっているように見えたのかもしれない。

 身体を動かしていて、あんなに痛かった肩が痛まないことが嬉しかったのだが、また急に痛くなったらと思ったから、少し遠慮がちになっていた。

「血が」
「……え?」
「血が、にじんでいる」

 男はそれだけ言うとセルマに近寄ってきた。セルマは焦って肩を引いて逃げようとしたが、あっけなく肩を掴まれた。

「なんだ、これは」

 言われてセルマは自分の左肩を見た。

「!」

 視界の端に、白いシャツがどす黒い赤に濡れているのが見えた。

「な……に、これ」
「呪いの矢のせいだ」

 痛くないのに血がにじんでいた。かばうように動いていたのは無意識のうちに血がにじんでいることに気がついていたからかもしれない。

 戸惑っていると男がセルマの着ているシャツのボタンを外しだした。セルマは慌てて男の手をつかんで止めた。

「なにを……っ!」
「止血……の前にもう一度、傷口を見せろ」
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