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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
梨花はもがきながら、素早く周囲を見回した。
小屋の中は見かけ以上に荒れていて、あちこちに蜘蛛の巣が張り巡らされ、錆び付いた鋤や鍬、壊れた籠や石臼が乱雑に放置されている。
一カ所、大きく木の壁が破れた箇所があり、そこから月光が差し込んでいた。小さな明かり取りの窓が上方に一つだけある。
と、梨花の耳許に生温かい息が吹きかけられた。思わず膚が粟立つような恐怖に囚われる。
「海棠、好きだ」
その声音には、確かに聞き憶えがあった。この声は―。
梨花の瞼に、下男の西褸(ソヌ)の顔がありありと浮かび上がる。
ソヌ、梨花がこの屋敷に来た当初から、執拗に追いかけ回しては口説こうとしている若い下男だ。
小屋の中は見かけ以上に荒れていて、あちこちに蜘蛛の巣が張り巡らされ、錆び付いた鋤や鍬、壊れた籠や石臼が乱雑に放置されている。
一カ所、大きく木の壁が破れた箇所があり、そこから月光が差し込んでいた。小さな明かり取りの窓が上方に一つだけある。
と、梨花の耳許に生温かい息が吹きかけられた。思わず膚が粟立つような恐怖に囚われる。
「海棠、好きだ」
その声音には、確かに聞き憶えがあった。この声は―。
梨花の瞼に、下男の西褸(ソヌ)の顔がありありと浮かび上がる。
ソヌ、梨花がこの屋敷に来た当初から、執拗に追いかけ回しては口説こうとしている若い下男だ。