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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
 手慣れたもので、南斗も金盥の水で手早く顔を洗う。梨花が手際良く差し出した手ぬぐいを受け取り顔の雫を拭き取った。
 使い終えた手ぬぐいを南斗から手渡されたその瞬間、ほんの少し手と手が触れる。指の先が掠っただけなのに、梨花はまるでその箇所だけ火傷したような熱が走ったように感じた。
 狼狽えて手を引っ込めようとすると、南斗は梨花の小さな手をすかさず捉えた。
「そなたの手は小さくて、可愛い」
 しばし梨花の手を眺めていたかと思うと、ポツリと呟きが落ちた。
「随分と荒れているな」
 その言葉に、梨花はハッと我に返った。
 彼の端整な顔に憂慮の表情が刻まれている。
 慌てて掴まれた手を引っこ抜く。
「後で薬を届けさせよう。少し臭うかもしれないが、ひび割れやしもやけにはよく効く」
「恥ずかしいです。こんな汚い手をそんなにじっと見ないで」
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