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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第1章 燐火~宿命の夜~
 むろん、大好きな読書に専念するためでもあったのは事実だけれど。
 その大好きな読書にあまりにも熱中しすぎて、気がつけば夜更けだった―というのも日常茶飯事である。
 当然、まだ漸く六歳になったばかりの梨花には、夜更かしをした上にいつもどおりの時刻に起きるのは難しい。つまり、数日に一度の割合で、梨花は朝寝坊する羽目になった。
 梨花の父林成水(ソンス)は兵曹(ピヨンジヨ)判(パン)書(ソ )と義(ウィ)禁(グム)府(プ )長(サ )を兼任する朝廷の重臣だ。現国王の信頼も厚く
、武官でありながらも学識も高かった。父に似たのか、梨花もまた物心ついた時分から、兄と共に家庭教師について学問を習いたいと父にせがんだものだ。
 しかし、他のことなら滅法娘に甘い父親も、その点については譲ろうとしなかった。
―女は必要以上に学を積む必要はあらず。難しい書物を紐解く暇があれば、裁縫や伽倻琴(カヤグム)の練習に励みなさい。
 身分の差などに拘らず、使用人に対しても気遣いを示す父は、両班(ヤンバン)にして大臣という立場の人にしては拓けた思想の持ち主といえる。そんな父であっても、やはり、女に学問は不要だと信じ込んでいるのだ。
 父は梨花の大抵の我が儘を黙認してくれたが、娘が兄も手を焼くような難解な書物を読むのを許さなかった。女中の眼について父に報告されてしまえば、書物はすぐに取り上げられてしまう。
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