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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第8章 終焉
むろん、威徳の妻は、良人が南斗に殺されたとは知らない。しかし、尹大行首父子と三人だけの祝宴中に、明らかに誰かに刺されて死んだのだ。良人の死について不審に思わないはずはなかった。
が、事件は存外に簡単に片付いた。威徳の妻はかねてから良人の女好き、吝嗇には手を焼き、商売のためなら手段を選ばない冷酷さも嫌っていた。威徳が十指に余る妾を侍らせていたため、噂によれば、夫婦仲は二十年前から冷え切っていたとまで囁かれる有り様であった。
威徳は翠月楼で心ノ臓の発作で倒れ、亡くなったことになり、更に、南斗の方は夜陰に紛れて女輿でその亡骸をひそかに翠月楼から運び出し、尹氏の屋敷で〝病死〟したことになった。
愕いたというべきか、当然というべきか、猛威徳の妻は、良人の不審な死について役所に訴えなかった。―どころか、威徳の身体に無惨な刀傷があるのを見ても、顔色一つ変えず、家僕たちに命じて、妾腹の娘たちや妾を呼びもせずに、亡くなったその日の中にさっさと荼毘に付した。
が、事件は存外に簡単に片付いた。威徳の妻はかねてから良人の女好き、吝嗇には手を焼き、商売のためなら手段を選ばない冷酷さも嫌っていた。威徳が十指に余る妾を侍らせていたため、噂によれば、夫婦仲は二十年前から冷え切っていたとまで囁かれる有り様であった。
威徳は翠月楼で心ノ臓の発作で倒れ、亡くなったことになり、更に、南斗の方は夜陰に紛れて女輿でその亡骸をひそかに翠月楼から運び出し、尹氏の屋敷で〝病死〟したことになった。
愕いたというべきか、当然というべきか、猛威徳の妻は、良人の不審な死について役所に訴えなかった。―どころか、威徳の身体に無惨な刀傷があるのを見ても、顔色一つ変えず、家僕たちに命じて、妾腹の娘たちや妾を呼びもせずに、亡くなったその日の中にさっさと荼毘に付した。