この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第1章 燐火~宿命の夜~
 スンチョンは最早、有無を言わせず梨花の手を掴むと、そのまま室を出た。庭へと続く階段を降りる。部屋の前は森閑と静まり返っていたが、かえって、その静けさが異様というか不気味であった。
 先刻聞こえた騒々しさは何であったのかと一瞬思いかけたものの、それはやはり聞き間違いではなかった。
 直に女の鋭い悲鳴が虚空をつんざいた。スンチョンに起こされたときは既にもう朝かと思ったのに、見上げた空はまだ漆黒に覆われ、屋敷全体はぬばたまの夜の底にひっそりと沈んでいる。
「お嬢さま、参りますよ」
 スンチョンに手を引かれ、梨花は走った。緊張のあまりか、いつもは温かなスンチョンの手が冷え切っている。
 梨花はその手をしっかりと握りしめた。まるで乳母の手を放してしまったら、二度と手を繋ぐことができなくなるとでもいうように。
 幾ら聡明とはいえ、所詮、六歳の幼子である。スンチョンについて走るのが精一杯で、途中で何度も転び、思うようには進めなかった。林家の庭は広大で、あちこちに庭木や花が植わっており、格好の隠れ蓑になってはくれたが、逆にその広さは女子どもが逃げ切るには困難でもあった。
 途中からスンチョンは梨花をおぶって逃げた。スンチョンの背中は広くて温かくて、頼もしい。乳母の背中にいる限り、自分は安全だ、守られているのだという安堵を憶えられた。
/332ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ