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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第3章 運命の邂逅
 というわけで、ソルグクは梨花の出している蒸し饅頭屋の近くの代書屋に勤めていた。代書屋というのは、客から依頼を受けた文書や手紙を当人に代わって代筆する仕事であり、時にはなかなか入手できない書物などを書き写す機会にも恵まれる。貰える給金はさほど多くはないが、この仕事は学問好きの兄には適任であり、ソルグク自身もやり甲斐を感じている。
 ソルグクが代書屋の仕事をしているため、父が殆ど寝たきりになってしまった現在、店の方は梨花が一人で切り盛りしなければならないのだ。梨花を我が子同然に育ててくれた母ヨンオクが流行風邪で亡くなったのは一昨年の冬。思えば、母が亡くなってからというもの、父の病気は一挙に悪化したような気がする。
 父と母は本当に仲の良い夫婦であった。けして声を荒げて喧嘩などしなかった実の両親林成水と母ヨウォンよりも、数倍夫婦らしい夫婦だった。
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