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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第1章 燐火~宿命の夜~
涙声になったスンチョンの言葉を最後まで聞き取るのは難しかった。
その時、更に先ほどの男たちの声が響き渡った。
「いや、確かに、あれは人の声だった」
一人が言うのに、相棒が応えている。
「それにしても、皆殺しかよ。幾ら何でも六つの娘っ子まで殺せっていうのはやり過ぎじゃねえのか。六つのガキを生かしておいたからって、何もできやしねえのによ」
「いや、右相(ウサン)大(テー)監(ガン)の仰せでは、確かに全員殺(や )れとのことだ。殊に兵(ピヨン)判(パン)大(テー)監(ガン)の嫡男と娘二人は必ず始末しろとのご命令だぞ。たとえガキといえども、遺児を生かしておけば、後々の禍根を残すことになるからな」
「チッ、年端のゆかねえガキを殺るなんざ、幾ら悪党でも寝覚めの悪い話だぜ」
「さっさと始末しちまおうぜ」
男たちの持つ松明なのか、海棠の繁みの向こうで焔がゆらゆらと揺れている。
降り始めた雨は止むどころか、次第に強くなり、梨花の黒髪や純白の夜着をしとどに濡らした。
寒い。身体の芯から悪寒が這い登ってきて、梨花は小刻みに身体を震わせた。五月の初旬、深夜はまだ冷える。殊に雨に打たれては、寒いと感じるのも当然だ。
むろん、堪(こら)えようとしても堪えられない震えは、恐怖のせいもあるだろう。梨花の背に回ったスンチョンの手に力がこもった。
その時。
クシュンと小さなくしゃみが洩れたのと、スンチョンがハッと息を呑んだのはほほ同時であった。
その時、更に先ほどの男たちの声が響き渡った。
「いや、確かに、あれは人の声だった」
一人が言うのに、相棒が応えている。
「それにしても、皆殺しかよ。幾ら何でも六つの娘っ子まで殺せっていうのはやり過ぎじゃねえのか。六つのガキを生かしておいたからって、何もできやしねえのによ」
「いや、右相(ウサン)大(テー)監(ガン)の仰せでは、確かに全員殺(や )れとのことだ。殊に兵(ピヨン)判(パン)大(テー)監(ガン)の嫡男と娘二人は必ず始末しろとのご命令だぞ。たとえガキといえども、遺児を生かしておけば、後々の禍根を残すことになるからな」
「チッ、年端のゆかねえガキを殺るなんざ、幾ら悪党でも寝覚めの悪い話だぜ」
「さっさと始末しちまおうぜ」
男たちの持つ松明なのか、海棠の繁みの向こうで焔がゆらゆらと揺れている。
降り始めた雨は止むどころか、次第に強くなり、梨花の黒髪や純白の夜着をしとどに濡らした。
寒い。身体の芯から悪寒が這い登ってきて、梨花は小刻みに身体を震わせた。五月の初旬、深夜はまだ冷える。殊に雨に打たれては、寒いと感じるのも当然だ。
むろん、堪(こら)えようとしても堪えられない震えは、恐怖のせいもあるだろう。梨花の背に回ったスンチョンの手に力がこもった。
その時。
クシュンと小さなくしゃみが洩れたのと、スンチョンがハッと息を呑んだのはほほ同時であった。