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12→13
第2章 動き出した歯車
終業後、残務を残していた俺の携帯が揺れた。
着信の主は俺の腐れ縁のバーテンダー、紫乃で。
嫌々ながらも電話に出れば、そいつは酷く怒っていた。
「もしもし聖人?俺だけど。」
たったその一言だけで、相手がご立腹なのは分かっていたが、理由が分からなかった。
問いただせば「会わせたい子がいる」と意味深に言う紫乃に苛立ちを覚えた。
それなのに電話越しに聞こえた声に俺の思考回路は停止した。
″わたし帰る!″
その声は俺の知っている声で、
「今から行くから帰らせるな!」
そう紫乃に叫んで乱暴に通話を終了させた。
我に返ったときは残業が自分だけで良かったと云うことだけ。
それ以外はもうあの声に囚われていた。
何故、彼女が紫乃の店に……?
紫乃が紹介したい子って……なんて柄にもなく焦って、気付いたときには紫乃の手の内で踊らされていた。
『あっ、もー、垂れちゃった。』
「どこ、」
『ここ、っあ!』
「……あま。」
店に来てから数分しか経っていないのに、コイツらの世界に俺は煽られた。
紫乃の店に着いて最初に飛び込んだのは完璧に出来上がった枢木と、その同期。
おまけに隣で見せ付けるように絡む二人。
それを面白がる紫乃。
「気になるの?聖人。」
「うるせぇ。」
くつくつと笑う紫乃は本当に意地の悪い子供のようで、それにまんまと嵌まる俺も相当アホだ。
「みのりん、隣にいる聖人にも構ってあげて?」