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素直になれなくて
第8章 波乱と別れ
腹が焼けるように熱い。
救急隊に囲まれて、処置を受けながら田坂は悠里を思っていた。
悠里は……無事だよな。
浅井さんが助けに行ったから、きっと大丈夫だ。
悠里……
田坂は、ポケットに入っている物を握りしめた。
「悠里……」
田坂は、優しく微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。
遠のく救急車の音。
薄れゆく意識の中、田坂は悠里の笑顔を思い浮かべていた。

「あ、浅井っ!」
店長の三浦から会社に連絡が行き、部長と恵美が既に病院に駆けつけていた。
浅井は、悠里を抱えるようにして、歩いてくる。
「悠里、ケガしてる。ちょっと見てもらった方がいいね。」
恵美は、病院のスタッフに声をかけ、悠里を処置室に連れて行ってもらう。
「田坂は?」
浅井の質問に、恵美は涙ぐんで黙り込んだ。
「おいっ!嘘だろ?」
恵美は、ゆっくりと首を振った。
「運ばれて来た時には……もう……」
「嘘だ……嘘だ……嘘……だろ……」
高山部長が、浅井の肩を強く掴んだ。
浅井は、その場に崩れ落ちた。

悠里は、手当を終え処置室を出ると恵美が待っていた。
「恵美ちゃん……ヒロくんは?」
「ん、行こうか。」
恵美は、悠里の肩を抱いて歩き出す。
廊下を歩いていると、悠里がふと足を止めた。
「ここ、病室じゃないよね。」
「うん。」
「恵美……ちゃん?」
廊下を曲がった先に、浅井が項垂れてベンチに座っていた。
「浅井……」
「……悠里……」
浅井の泣き腫らした目を見て、悠里は身体が震えた。
悠里は、目の前の扉をゆっくりと開けた。
冷たい空気が、悠里の頬を撫でる。

そこには、安らかな顔をした田坂が眠っていた。

「ヒロくん?帰ろ?……今日はお祝いするって言ってたよね?」
悠里は、そっと田坂の手に触れた。
「……冷たい……何で……何で……ヤダ……」
恵美は、悠里の肩を優しく抱きしめた。
「救急車の中で、田坂、ずっと悠里を呼んでたって……」
「……恵美ちゃん、何で?」
「ん………悠里……」
恵美は、悠里を強く抱きしめた。
「悠里。これ。」
小さな箱を手渡された。
「田坂のポケットに入ってた。」
悠里は、ゆっくりと箱を開けた。
綺麗に光るダイヤの指輪が収められていた。
「彼奴、プロポーズするつもりで……」
恵美はそこまで言うと、涙が溢れた。
悠里は、指輪を握りしめた。
「嘘だよ……」
泣き崩れる悠里を恵美は、いつまでも抱きしめていた。
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