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第8章 波乱と別れ

「俺は、嬉しかったよ？」
悠里は、浅井をゆっくりと見上げた。
「ダメだよ。そんなの…嬉しくならないで？」
浅井は、悠里の頭を優しく撫でた。
「わかったから。メシ食おうぜ？」
「ん。」

浅井は、スクランブルエッグとカリカリベーコンをテーブルに置いた。コーンスープとトーストを並べると、席に着いた。
「悠里も、座って？」
「うん。」
「ちゃんと、食べないとダメだからな？」
「ん。」
悠里は、コーンスープを口にする。
「美味しい。」
「はは、インスタントだけどな。」
「でも、人に作ってもらうと美味しいんだよ。」
「そっか。」
たわいも無い話をして、朝食を終えた。
「俺、仕事行くから、悠里は暫く休めよ。」
「え、でも……」
「もう少ししたら、桜庭来るから。」
「え？」
「見張りだよ。変な気起こされると困るからな？」
悠里は、浅井を黙って見つめた。
「それから、1人で泣くなよ。誰かの前で泣けよ。」
「浅井……」
悠里は既に涙が溢れそうだった。
「ほら……我慢するな。泣きたい時は思いっきり泣けよ。」
浅井は、悠里を優しく抱きしめた。
「浅井ぃっ……」
「悠里、いっぱい泣け。泣いて良いんだ。」
悠里は、浅井の肩に掴まり、堰を切ったように泣き出した。
高校生の時の、切ない別れから数年。最悪の出会い。やっと再会して恋人同士になれたのに……再発もなくて……生きてたら、きっと今頃……
どうして……ヒロくんはここにいないんだろう。
もう二度と会えない。
悠里は、田坂の死以来、初めて思いっきり泣いた。
空っぽだった何も感じなかった胸が、次第に痛みを帯びていく。切なさが、込み上げてくる。
もう二度と会えない田坂を想って、悠里は声を上げて泣いた。

「……浅井……ワイシャツ、グチョグチョになっちゃった。」
「気にするな。」
浅井は、優しく微笑んだ。
「悠里……泣けて良かったな……」
浅井は、悠里の頭を優しく撫でた。