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素直になれなくて
第9章 愛の行方
「悠里、お前の気持ちはしっかり受け取ったから。田坂の子が出来たから、俺の前から姿を消した。そうだろ?」

悠里は、田坂が亡くなって暫くして、自分の身体に異変を感じた。
「え……私、何時から生理来てない?」
慌てて薬局で検査薬を購入した。
結果は陽性。

田坂の子を宿した喜びと、そして思う浅井への気持ち。
支えてくれている浅井に知られれば、きっと子供の事も浅井は背負い込むに決まってる。浅井が優しいのは、痛いくらい分かっていたから。
「これ以上……甘える訳には行かないの。ね?ヒロくん。」
悠里は、夜の空を見上げた。そして決意する。浅井の元から、姿を消そうと。
一緒に行った、田坂の墓参り。
田坂の墓前で、悠里は子供が出来たことを報告した。
最初で最期の、浅井とのデート。
レストランで、浅井に好きだと告げた。残酷なことだと思った。好きだと言っておいて、姿を消してしまうのは。
でも、気持ちを伝えずにいられなかった。
知って欲しかった。浅井は愛されていると。
浅井は、悠里にとって、もう既に家族の様な存在になっていた。掛け替えのない存在。だからこそ、浅井の人生を大切にして欲しかった。
悠里は浅井に抱かれた。
田坂の代わりではなく、浅井自身に抱かれたかった。
悠里は伝えたかった。あなたは、誰かの代わりではない事を……

「浅井は、浅井なの。私が傍に居ると、浅井は何時までもヒロくんの代わりをしてしまう気がして……」
浅井の手に、力がこもった。
「悠里…始めは俺も……田坂の代わりで良いと思っていた。でもな………俺は俺だ。田坂の代わりは出来ない。だが、彼奴の事も引っ括めて、悠里を愛しちゃ駄目か?」
悠里は、瞳を潤ませて浅井を見つめた。
「悠里が愛した田坂を、俺も愛したい。現に俺、こいつ、もう離したくない。」
浅井は腕の中で、安心しきって眠る浩斗の頬にキスをした。
「可愛過ぎるだろ。こいつ。田坂のミニチュアみたいだ。」
浅井は、優しく微笑んで、悠里を見つめた。
「俺はな、悠里も、田坂も、大好きなんだ。だから、お前もこいつも傍にいて欲しい。」
悠里の頬に涙が溢れた。
「それに……悠里1人で全てを背負い込むな。俺にも少し分けてくれよ。」
悠里は、浅井に優しく微笑んだ。
「浅井、今日はイケメンに見える。」
「アホ、俺は昔からイケメンだ。」
浅井は、悠里の頭をワシワシ撫でた。
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